今でも夏の夜に窓の外で虫が飛ぶ音を聞くと、数年前のあの苦い経験が鮮明に蘇ってきます。当時、私は緑の多い地域のマンションの三階に住んでおり、仕事帰りの蒸し暑い夜、少しでも涼もうと窓を細く開けて作業をしていました。ふと右腕のあたりに小さな違和感を覚え、何かが這っている感触があったので、無意識のうちにその場所を強くパチンと叩いてしまいました。その時は小さな黒い虫が潰れた程度にしか思わず、ティッシュでサッと拭き取ってそのまま眠りについたのですが、本当の恐怖は翌朝になってから始まりました。朝起きると、右腕の内側に覚えのないヒリヒリとした痛みが走り、鏡を見てみると、そこにはまるで熱い針金でなぞったような細長い赤い筋が浮き上がっていたのです。最初は「寝ている間にどこかで擦ったのかな」程度に考えていましたが、時間の経過とともに赤みは増し、夕方にはその赤い線に沿って小さな水膨れがびっしりと並ぶという、異様な光景に変わりました。その痛みはまさに火傷そのもので、服の袖が触れるだけで飛び上がるほどの激痛が走り、慌てて皮膚科に駆け込んだところ、医師から告げられたのが「やけど虫」という名前でした。診察室で写真を見せてもらうと、昨夜私が叩き潰したあのオレンジと黒の虫そのものが映し出されており、自分が犯した過ちの大きさを思い知らされました。医師からは「この虫は絶対に叩いてはいけない。もし体液が目に入っていたら大変なことになっていた」と厳しく注意を受け、ステロイドの塗り薬を処方されました。完治するまでには二週間近くかかり、膿を持った水膨れが破れて皮が剥ける過程は精神的にもかなり辛いものでしたが、何よりショックだったのは、その後もしばらくの間、茶色い線のような跡が腕に残ってしまったことです。幸いなことに半年ほどかけて跡は薄くなりましたが、あの時の不注意な一撃が、これほどの苦痛と後悔を招くとは夢にも思いませんでした。それ以来、私は夜間に窓を開ける際には網戸の隙間がないか徹底的にチェックし、肌に虫が止まった時は、それがどんなに小さくても決して叩かずに、フッと息で吹き飛ばすか、紙を使って慎重に移動させるようにしています。やけど虫は、都会の片隅や住宅街にも静かに潜んでいます。あの日、私を襲った激痛を他の誰にも味わってほしくないという思いから、周囲の友人や家族には「オレンジと黒の虫には絶対に触れるな」と口を酸っぱくして伝え続けています。
腕に残った線状の傷跡とやけど虫との苦い思い出