私が幼い頃に過ごした田舎の古い家では夏になると決まって祖母が台所の隅で怪しげな白い粉とタマネギを練り合わせる儀式のような光景が見られました。それが我が家の夏の風物詩ともいえる伝統的なゴキブリ団子の作り方でありその驚異的な効果を私は大人になってから改めて実感することになりました。祖母のレシピは非常にシンプルながらも長年の経験に基づいた工夫が随所に散りばめられていました。まず用意するのはドラッグストアで購入したホウ酸とどこの家庭にもある薄力粉そして最も重要なのが採れたてのタマネギです。祖母はタマネギの皮を剥きおろし金を使って丁寧にすりおろしていました。その際に出る刺激的な香りが家中に広がるとそれがゴキブリたちにとっての死の招待状になるのだと祖母は笑って話していました。すりおろしたタマネギにホウ酸をたっぷりと混ぜ込みさらに砂糖と練乳を隠し味として加えるのが祖母流の秘訣でした。甘い香りに誘われてやってきたハチやアリには目もくれずゴキブリだけを確実に仕留めるために牛乳で固さを調整しながら耳たぶほどの柔らかさになるまで手でこね続けます。当時の私はまるで泥遊びのようだと思って眺めていましたが祖母の指先が白く粉まみれになるまで続けられるその作業には家族を不快な虫から守るという強い意志が込められていたように思います。丸く成形された団子たちは縁側の陽当たりの良い場所に並べられカラカラに乾くまで三日ほど置かれました。完成した真っ白な団子を祖母は小さなアルミの皿に乗せて流し台の奥や古いタンスの裏に忍ばせていきました。不思議なことにその団子を置いてからというもの家の中で大きなゴキブリを見かけることはほとんどなく夜中に台所へ行ってもあの嫌なカサカサという音に怯える必要はありませんでした。現代では便利な市販品がいくらでも手に入りますが自分の手で材料を吟味し丹精込めて作り上げるこの手法には機械で作られた製品にはない安心感と力強さが宿っています。今では私が祖母の代わりにそのレシピを再現し自分の家で同じように団子を丸めています。タマネギの香りを嗅ぐたびに祖母の温かい手と知恵を思い出しながら伝統を受け継ぐ喜びを感じると同時に清潔で平穏な暮らしがこうした小さな積み重ねによって守られているのだと痛感しています。