暦が秋へと進み、朝晩の冷え込みが厳しくなり始めると、不思議なことに家の中で黒い虫を見かける機会が増えたような気がします。夏の間は外で活発に動き回っていた虫たちが、越冬の場所を求めて、あるいは最後の繁殖のために暖かい人間の住まいへと吸い寄せられてくるのでしょうか。リビングの窓辺で見つけたコメツキムシは、ひっくり返すとパチンと音を立てて跳ね上がり、その健気な生命力に驚かされます。彼らにとって、私の家はさぞかし広大で奇妙なシェルターに見えていることでしょう。一方で、洗面所の隅を走る小さな黒い影には、やはり本能的な緊張が走ります。それは野外からの迷い込みではなく、明らかに家の中でひっそりと命を繋いできた「住人」たちの気配だからです。季節の変わり目は、家の中の生態系が大きく動く時期です。クローゼットの中を整理すれば、夏の間に羽化したカツオブシムシの成虫が窓に向かって飛ぼうとしているのを見つけ、自分がこの数ヶ月、彼らとクローゼットの暗がりを共有していた事実に気づかされます。虫たちを観察していると、彼らがいかに効率よく、私たちの生活の隙間を利用しているかが分かります。こぼれたお菓子のカス一つ、脱ぎっぱなしの服一枚、そして掃除機が届かなかった一角のホコリ。これらすべてが、彼らにとっては命を繋ぐための貴重な資源なのです。日記を書き留めるように、虫を見つけた場所と時間を記録してみると、自分の生活の「癖」が見えてくるから不思議です。洗面所に虫が多いのは、髪の毛の掃除が不十分だからかもしれない。キッチンの床を走るのは、ゴミ箱の蓋が少し浮いているからだろうか。虫たちは、私が見て見ぬふりをしてきた場所を、正確に指し示してくれる鏡のような存在でもあります。追い払ったり、退治したりすることに躍起になる前に、まずは彼らが何を教えてくれているのかに耳を傾けてみたいと思います。この季節が終わる頃、私の家がもう少しだけ整理され、虫たちにとっての魅力が減っていることを願いながら、今日も掃除機を手に部屋を回ります。虫との遭遇は、自分の暮らしを研ぎ澄ませるための、少し不快だけれど大切なきっかけなのかもしれません。自然と文明の境界線で、今日も小さな黒い命との奇妙な共生が続いています。