それは湿気の多い梅雨明けの夜のことでした。歯を磨こうと洗面所の電気をつけた瞬間、タイルの上を素早く走る数ミリの小さな影が目に入りました。最初はクモか何かだと思いましたが、よく見るとその特徴的な触角と平らな体は、紛れもなくゴキブリの幼虫でした。「一匹だけなら大丈夫」と自分に言い聞かせながら、ティッシュで捕まえて処分しましたが、胸のざわつきは収まりませんでした。調べてみると、ゴキブリの幼虫が一匹いるということは、その周辺に数十匹の兄弟が潜んでいる可能性が高いという恐ろしい事実を知りました。翌日、私は意を決して洗面所の下の収納棚をすべて空にしました。普段は開けることのない奥の方をライトで照らすと、排水管の隙間や木材の接合部に、小さな黒い粒のようなフンが点在しているのを発見しました。ショックでしたが、これが現実なのだと痛感しました。私はまず、隙間ノズルをつけた掃除機で隅々のホコリを吸い取り、アルコールスプレーで念入りに拭き上げました。さらに、排水管と床の間にあったわずかな隙間を、市販のパテで完全に塞ぎました。侵入経路を断つことが最優先だと考えたからです。次に、キッチンの冷蔵庫の裏や電子レンジの下など、熱を持ちやすい場所にも毒餌剤を配置しました。一匹の幼虫との遭遇は、私にとって住まいの脆弱性を教える警告灯だったのです。それから数日間は、夜中に電気をつけるたびにビクビクしていましたが、徹底的な清掃と対策が功を奏したのか、その後新しい幼虫を見かけることはありませんでした。もしあの時、一匹だけだからと無視して放置していたら、数ヶ月後には成虫になった彼らと大量に遭遇することになっていたかもしれません。今では週に一度、水回りの奥まで点検することを習慣にしています。ゴキブリ対策において最も大切なのは、一匹の幼虫を見逃さない観察力と、その背後にあるリスクを想定した迅速な行動力なのだと、身をもって学びました。
洗面所で見つけた一匹の幼虫から始まった我が家の防虫戦記