夏の夜、網戸の隙間から入り込んだ小さな虫を、思わず手のひらで払いのけてしまった。その数時間後、肌に線状の赤いみみず腫れが現れ、ヒリヒリとした激しい痛みに襲われる。それは、通称「やけど虫」の仕業かもしれません。やけど虫とは、正式名称を「アオバアリガタハネカクシ」という、体長わずか6〜7mmの小さな甲虫です。その名の通り、頭部は黒く、胸部がオレンジ色、腹部が黒とオレンジの縞模様という、アリに似た特徴的な姿をしています。この虫は、決して人を刺したり咬んだりするわけではありません。しかし、その体液には「ペデリン」という、非常に強力な毒素が含まれています。このペデリンこそが、まるで火傷をしたかのような、激しい皮膚炎を引き起こす元凶なのです。やけど虫の症状は、虫の体液が皮膚に付着してから、すぐには現れません。数時間から半日程度の潜伏期間を経て、突然、線状の赤い発疹(線状皮膚炎)となって現れるのが特徴です-。これは、虫を潰したり払いのけたりした際に、腕や首などの皮膚の上を、毒液を付けた虫の体の一部が線を描くように移動するために起こります。症状は、まずヒリヒリとした灼熱感を伴う痛みから始まり、次第に赤く腫れ上がり、水ぶくれ(水疱)を形成します。この水ぶくれが破れると、びらん(ただれ)となり、さらに強い痛みを伴います。症状のピークは2〜3日続き、その後、かさぶたとなって、1〜2週間かけて徐々に治癒していきますが、炎症が強かった場合は、色素沈着(シミ)が残ってしまうこともあります。目に入った場合は、激しい痛みと共に結膜炎や角膜炎を引き起こし、失明に至る危険性すらあります。たかが小さな虫と侮ってはいけません。その体内に秘められた毒は、私たちの皮膚に深刻なダメージを与える、恐るべき力を持っているのです。