山の管理を四十年以上続けてきた老練な達人と話をすると、彼はいわゆるブヨに刺されやすい人について興味深い視点を持っています。達人によれば、ブヨは人間の健康状態や日々の食生活を匂いで嗅ぎ分けているのだそうです。例えば、肉類や脂っこい食事、あるいはスパイスを多用した料理を好む人は、皮脂の成分が変化し、汗とともに放出される匂いが強くなるため、ブヨを強く誘引すると言います。これは単なる迷信ではなく、食事によって血液の質や代謝産物が変わるという生理学的な裏付けとも一致します。達人が山に入る際、何日も前から食事を質素なものに変え、アルコールを断つのは、自身の放つ匂いを変えるための知恵なのです。また、達人は精神的な状態も関係していると主張します。焦っていたり、過度に緊張していたりすると、人間は無意識のうちに独特のストレス臭を発し、呼吸も浅く速くなります。これが二酸化炭素の局所的な濃度を高め、ブヨに居場所を知らせる結果となります。山の中でリラックスし、自然の呼吸に合わせている達人が刺されにくいのは、身体から発せられる信号が周囲の環境に溶け込んでいるからかもしれません。さらに、子供や若者が刺されやすい理由についても、達人は明快な答えを持っています。彼らは新陳代謝が非常に活発で、皮膚の表面温度が常に高く、常に新鮮な血液が巡っています。ブヨにとって、これほど栄養価が高く見つけやすい獲物はないのです。また、達人が指摘する盲点として、朝夕の活動時間帯の認識不足があります。ブヨは日中のカンカン照りの時間よりも、気温が少し下がる早朝や夕暮れ時、あるいは曇り空の時に最も活発になります。この時間帯に不用意に肌を露出させて外に出る人は、達人の目から見れば格好の餌食です。山での生活は、常に昆虫たちとの知恵比べです。ブヨに刺されやすい性質を持っていることを自覚しているならば、それを隠す工夫が必要です。達人が愛用するハッカ油などの自然由来の忌避剤も、身体の信号を覆い隠すための有効な手段となります。ブヨに好かれる性質を理解することは、山という厳しい自然の中で生き抜くための基本的なリテラシーであり、それを身につけることで初めて、私たちは森の静寂を心から楽しむことができるようになるのです。
山の達人が語るブヨに好かれる人の性質