アオバアリガタハネカクシという正式名称を持つやけど虫がこれほどまでに恐れられる最大の理由は、その体液に含まれるペデリンという極めて強力な毒素にあります。この物質は、生物学的な観点から見るとタンパク質の合成を阻害する複雑な非タンパク質性毒素であり、皮膚の細胞に触れると即座に浸透し、数時間から半日の潜伏期間を経て激しい炎症を引き起こします。他の多くの有毒昆虫が針で刺したり顎で噛んだりして毒を注入するのに対し、やけど虫はただ皮膚の上を這ったり、叩き潰されたりして体液が漏れ出すだけで被害をもたらすという、特異な攻撃スタイルを持っています。ペデリンが皮膚に付着すると、細胞内のリボソームに作用してタンパク質の製造を停止させ、その結果として広範囲の細胞死を招きます。これが私たちの目には、まるで熱湯を浴びたような水膨れや、線状の赤い腫れとして映るのです。線状皮膚炎と呼ばれるこの症状は、虫が移動した軌跡に沿って毒が付着するために起こるもので、その形が火傷の跡に似ていることが通称の由来となりました。ペデリンの毒性は非常に安定しており、虫が死んだ後も長期間その効力を失わないため、死骸を処理する際にも細心の注意が必要です。また、この毒素は水に溶けやすい性質を持っているため、付着した直後であれば大量の水で洗い流すことで症状を劇的に軽減できる可能性がありますが、一度皮膚の深部まで浸透してしまうと、強力なステロイド剤による治療を行わない限り、激しい灼熱感と痒みが数週間にわたって続くことになります。やけど虫がこの強力な毒を体内で合成できるのは、実は特定の共生細菌の力を借りているためであることが近年の研究で明らかになっており、自然界における生存戦略として非常に高度に進化を遂げた結果であると言えます。このように、小さな体に秘められた化学兵器ともいえる毒の仕組みを正しく理解することは、単なる恐怖心を取り除くだけでなく、万が一の接触時に冷静かつ迅速な応急処置を行うための重要な知識の基盤となります。見た目はアリに似た小さな虫に過ぎませんが、その一滴の体液が人間の皮膚を破壊するほどの威力を持っていることを決して忘れてはいけません。
やけど虫の毒成分ペデリンが皮膚に引き起こす炎症の仕組み