それは、私が一人暮らしをしていたアパートで、引っ越しの準備をしていた時のことでした。荷造りのため、クローゼットの奥に一年近くしまい込んでいた、古い段ボール箱を引っ張り出しました。中には、もう読まなくなった本や、学生時代のアルバムが詰まっています。箱を開け、中の本を取り出そうと手を伸ばした瞬間、私は、箱の隅に、いくつかの黒い粒が落ちているのに気づきました。最初は、乾燥した虫の死骸か何かだろうと、あまり気にしませんでした。しかし、そのうちの一つが、明らかに異様な形をしていることに、私の目は釘付けになりました。長さ1センチ弱の、まるでガマ口財布のような、艶のある黒褐色のカプセル。その形には、見覚えがありました。テレビやインターネットで何度も見たことがある、あの、ゴキブリの「卵鞘」です。全身から血の気が引いていくのが分かりました。まさか、自分の部屋に、こんなものが。震える手で、箱の中をさらに探ると、同じカプセルが、さらに二つ、三つと見つかりました。そして、箱の底には、パラパラとした黒いフンのようなものが散らばっています。この段ボール箱が、私の知らない間に、ゴキブリたちの保育室と化していたのです。私はパニックになり、その場で箱をガムテープでぐるぐる巻きにして封印し、その日のうちに、粗大ゴミとして処分しました。しかし、恐怖はそれだけでは終わりませんでした。もしかしたら、すでに成虫が這い出して、部屋のどこかに潜んでいるのではないか。あるいは、他の場所にも、まだ見つけていない卵鞘があるのではないか。その日から、引っ越しを終えるまでの数週間、私は常に何かの気配に怯え、安らかに眠ることができませんでした。あの小さな黒いカプセルは、私に、見えない場所で静かに進行する、害虫の侵略の恐ろしさを、骨の髄まで叩き込んでくれました。そして、不要な段ボールを家に溜め込むことが、どれほど危険な行為であるかを教えてくれた、忘れられない、悪夢の記憶なのです。