家の中でゴキブリが大量発生。意を決して、部屋全体を対象とした「バルサン」などのくん煙・くん蒸タイプの殺虫剤を使用した。これで一安心、と思いきや、数週間後、またしても小さなゴキブリの姿を見かけるようになった。そんな、絶望的な経験をしたことはありませんか。その理由は、非常にシンプルです。それは、「くん煙剤は、ゴキブリの卵にはほとんど効果がない」からです。この事実を知らないと、何度殺虫剤を使っても、イタチごっこの戦いを永遠に繰り返すことになりかねません。なぜ、強力なはずの殺虫剤が、卵には効かないのでしょうか。その秘密は、ゴキブリの卵が収められている「卵鞘(らんしょう)」の、驚くべき防御性能にあります。卵鞘は、タンパク質でできた、非常に硬く、そして気密性の高い殻で覆われています。例えるなら、中の卵を守るための、堅牢な装甲シェルターのようなものです。くん煙剤の殺虫成分は、空気中に浮遊する微細な粒子であり、ゴキブリの呼吸器(気門)から体内に侵入することで効果を発揮します。しかし、この薬剤の粒子は、卵鞘の硬い殻を貫通することができず、中にいる卵まで到達することができないのです。そのため、たとえその時に活動していた成虫や幼虫を全て駆除できたとしても、安全なシェルターの中に守られていた卵は生き残り、薬剤の効果が切れた後、安全になった環境の中で、何食わぬ顔で孵化してきてしまうのです。これが、くん煙剤を使用しても、ゴキブリが再発する最大の理由です。では、どうすれば卵ごと根絶やしにできるのでしょうか。最も確実な方法は、まず、卵鞘そのものを物理的に探し出し、潰して処分することです。そして、くん煙剤を使用する場合は、説明書に書かれている通り、卵が孵化するタイミング(2~3週間後)を見計らって、「二度目のくん煙剤を使用する」ことです。これにより、一度目の駆除を生き延びた卵から孵化した幼虫を、彼らが成長して次世代の卵を産む前に、叩くことができます。この二段構えの戦略こそが、ゴキブリの繁殖の連鎖を断ち切るための、正しい駆除法なのです。
ゴキブリの卵に殺虫剤は効かない?その理由と正しい駆除法