家の軒下や庭木にミツバチが巣を作り始めた時、多くの人がまず考えるのは「駆除」かもしれません。しかし、その行動を起こす前に、ミツバチが私たちの自然環境や食生活にとって、いかに重要で有益な存在であるかを知ってほしいのです。ミツバチは、単なる蜜を集める昆虫ではありません。彼らは、植物の受粉を助ける「ポリネーター(花粉媒介者)」として、生態系の中で極めて重要な役割を担っています。私たちが普段口にしている野菜や果物の多くは、ミツバチのようなポリネーターが花から花へと飛び回り、花粉を運んでくれることによってはじめて実を結ぶことができます。リンゴ、イチゴ、メロン、カボチャ、ナスなど、その恩恵を受けている作物は数えきれません。一説には、世界の食料の三分の一が、彼らの受粉活動に依存しているとも言われています。つまり、ミツバチがいなくなれば、私たちの食卓は非常に貧しいものになってしまうのです。このため、ミツバチは「益虫」の代表格として、世界中で大切に保護されています。しかし、そんな益虫であるミツバチも、人間の生活空間に巣を作ってしまうと、時として「害虫」と見なされてしまうのが現実です。巣が玄関先やベランダなど、人の出入りが激しい場所にあれば、気づかずに刺激してしまい、刺される危険性があります。また、家族にハチアレルギーの人がいる場合は、その存在自体が大きな脅威となります。このように、ミツバチの駆除を考える際は、彼らが持つ「益虫」としての側面と、「害虫」となりうる危険性の両方を天秤にかける必要があります。単に「怖いから」「不快だから」という理由だけで駆除を選択するのではなく、まずは彼らの大切な役割を理解すること。そして、本当に駆除が必要な状況なのか、あるいは共存や安全な場所への移動といった他の選択肢はないのかを、冷静に考えてみることが、自然と共生していく上で非常に大切な姿勢と言えるでしょう。